最高裁判所第三小法廷 昭和30(オ)107 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人徳永平次の上告理由第一点について。
論旨は、原判決が維持した第一審判決には訴訟の目的物を特定しない違法がある
と主張する。しかし第一審判決は、主文中に明渡を命ずる土地の地番と坪数とを表
示した外、特定の建物の敷地であることをも明示しており、しかも右土地が具体的
に如何なる範囲の土地であるかについては当事者間に全く争がないのであるから、
所論のように訴訟の目的物が特定していないとはいえない。ただ所論別件決定の主
文と本件第一審判決の主文とを比較してみると、別件主文ではa番地の内一部はD
の借地権の範囲に属するのに、本件主文によればa番地には右借地権の範囲に属す
る部分が存しないかのようであつて、その間矛盾あるかの如くに見える。しかし本
件主文は要するに主文掲記の建物の敷地の明渡を命じたのであつて、しかもその敷
地とDの借地権の目的たる土地とは全く別であることにつき当事者間争がないので
あるから、本件主文中括弧の部分はむしろ不要だつたのであり、不要の文字を不正
確に挿入したことになるが、そのために本件主文において明渡を命じた土地の特定
が害されたとは解されない。論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨の理由なきことは上記第一点について述べたところによつておのずから明ら
かであろう。殊に本訴はDの借地権の範囲を確定することを目的とするものではな
いから、仮りにその範囲が本判決上不明確であつても、所論のような違法ありとす
るに足りない。
同第三点について。
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論旨は、原判決が乙一、二号証を証拠に基かずして偽造と認定していると主張す
るが、これは事実に反する。原判決援用の証拠により十分右事実を認定することが
できるからである。論旨その余の主張は、すべて結局において、原審が適法にした
証拠の取捨、事実の認定を争うに帰し、理由がない。
同第四点について。
弁済のための供託は当該債務についてなされることを要する。甲債務のための弁
済供託により乙債務の弁済の効果を生ずる道理はない。そして土地賃借人の地代支
払義務と土地の不法占有による損害金支払義務とが別個の債務であることもちろん
であるから、上告人が地代としてその主張の金額を供託しても損害金債務の弁済に
はならないわけである。論旨は、債務の性質が異なつても供託により弁済の効果を
生ずるという誤れる主張であつて、採用することができない。
同第五点について。
建物保護法は本件の場合適用の余地がなく、権利濫用の主張に対する原審の判断
は正当である。原判決には民訴一八六条違反のかどは認められず、所論援用の判例
はすべて本件に適切でない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 河 村 又 介
裁判官 垂 水 克 己
裁判官 高 橋 潔
裁判官島保は病気につき署名押印することができない。
裁判長裁判官 河 村 又 介
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